革の魅力
ありがとう
沢山、たくさんの工程を経て、「皮」は、「革」になり、2度目の生命をもらいます。
何度か、革工場にお邪魔しましたが、製革とは、繊細な出来上がりの裏にある、面倒で、マンパワーのいる作業の連続です。
小さな、小さな、工房のなのに、染色や出来上がりのうるさい私の注文にも、いつも、応えていただき、感謝感謝です。
革の乾燥中
長い、長~い工程を経て
1枚の革に
このドラムで染色
1度に100枚の革が
入っちゃいます
好きで始めた革工芸でしたが、
何年か経ったとき、「何故、革という素材でないといけないんだろう、」と疑問を感じ始めていた頃。
ある百貨店のエスカレーターの横で1週間、販売させていただいた時のことです。
遠くから、10代の娘さんの手を引いた年配のご婦人が、ゆっくり、ゆっくりとこちらの方へ、近づいて、来られました。
見ていると、その娘さんは、近くにあった、色々なものに触れながら、歩いていました。
実は、私のお店の手前のコーナーには、その時、色んな素材で作られたカバンや袋物が、飾ってあったのですが、その娘さんは、特にカバンに興味を感じられていたようで、ひとつひとつ触っては、感触を確かめているようでした。
その娘さんは、目が不自由だったのです。
こちらにも、来られるのかしらと思って何気に見ていて、私は、あることに気が付きました。
その娘さんが、手放していくのは、合皮のカバンで、選んで、2つも3つも手に抱えているのは、牛革のカバンでした。
もちろん、合皮が、悪いわけではありません。水に強く安価である等、優れた面もある素材です。
ただ、手の感覚だけで、物を見分ける、その娘さんにとって、理屈抜きで、惹かれているのが、革であったのは、確かなようでした。
気に入らない素材のものは、少々乱暴なぐらいに、置いていかれるので、年配の婦人は、頭を下げながら、カバンを元に戻されていて…
とうとう、私のカバン達に触れる時が来ました。
夢中になって、カバンを、触ってゆく娘さん。
最後に、大きなトートバックを抱えて、何か訴えているような、言葉にならないような声が。
「それが、いいの? それにするの?」
呆気に、とられて見ていた私に、祖母様は、お財布から1万円札を何枚か出して、娘さんの手に握らせ、その手を私の手の平の上に押し付けるように。
「孫は、目も見えないし、耳も聞こえないの、だから、喋ったりできないし、色んなことが、伝えれなくて。でも、こうしてると、何か得るには、こうやってお金を渡すのだということは、覚えるから。」
そのあと、バックの説明やメンテナンスのお話をして、
呆気にとられた理由のひとつ。
この1週間の販売の為に製作したバックの中で、今回一番頑張って、手間かけて、お気に入りの革で作ったトートバック。
それを見事、選ばれたと祖母様には、伝えました。
二日後、またご来店いただいた、祖母様から、
「孫はね、あのバックが、よっぽど、気に入ったのね。
ずっと、離さなくて、離そうとしなくて、一晩抱えて寝たのよ。」
と聞かされ、胸が詰まる思いになりました。
「ああ、そうなのか、だから、革なのか。... 」
教えていただいた、瞬間でした。
今でも、時折その時のことを、思い出します。